心電図と糖尿病(Machine-learning)

 この夏、一番興味深いと感じた心電図と糖尿病の論文を紹介します。

 心電図検査のみで糖代謝機能を判定できるという機械学習(Machine-learning)を用いた研究が発表されました。英BMJ Innovations誌の『Machine-learning algorithm to non-invasively detect diabetes and pre-diabetes from electrocardiogram (Kulkarni AR, et al. 2022)』に掲載された論文です。

 糖尿病の診断基準は、糖尿病型:空腹時血糖≧126㎎/dl、ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値≧200㎎/dl、随時血糖≧200㎎/dlのいずれかを別日に2回満たす、もしくは糖尿病型かつHbA1c≧6.5%の場合に糖尿病と診断されます(糖尿病診療ガイドライン2019)。

 採血をせずに、心電図だけで糖代謝機能を判定できる?

 アルゴリズム構築のための Machine-learning には、1262人、8892例の12誘導心電図の波形を利用し、糖代謝機能(正常耐糖能 no diabetes、耐糖能障害 pre-diabetes、糖尿病 type 2 diabetes)は、ADA(アメリカ糖尿病学会)の診断基準を用いています。

 心電図の機械学習によって糖代謝機能を、97.1% precision(精度), 96.2% recall(再現性), 96.8% accuracy(正確度) および 96.6% F1 scoreという高い診断能力で糖代謝機能を判定しています。特に、第III誘導、aVL誘導、V4、V5、V6誘導の波形が糖代謝機能の判定に強く寄与していました。

 高血圧は、左室への負荷から左室肥大を来たしますので、高電位などの心電図変化を来たすことは臨床でもよく経験します。糖尿病も、動脈硬化による虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)や心不全など心疾患のリスク因子であり、糖代謝異常発現の初期から心電図変化がみられることがあります。心電図検査は、血糖測定のように痛みを伴いませんし、健康診断などで広く行われています。心電図を撮るだけで、糖尿病の診断が可能であることを示したこの研究は、大変興味深く、さらなる技術の発展が期待されます。

大濠内科