心不全療養指導士勉強ノート_食塩感受性高血圧
12回目は、食塩感受性高血圧についてです
食塩感受性高血圧とは、食塩排泄能低下によりNaの影響を受けやすい高血圧のことを言います。塩分が多い状態だとレニンが抑制されているにもかかわらず、血圧が上昇します。逆に、Naが少ない状態や交感神経の活性化、出血している場合はレニンが活性化されますので、血圧は保たれます。
食塩感受性高血圧の特徴
・腎機能障害
・糖尿病
・肥満
・家族歴(遺伝性)
・高齢者
・女性
・インスリン抵抗性
・低レニン
・SAS 睡眠時無呼吸症候群
・原発性アルドステロン症
がある方は、腎臓でのNa排泄機能に障害が生じやすく、Naが外に出ていかないので血圧をあげることにより、Naを外に出そうとします。
塩分を多くとると、腎臓の交感神経の活動が促進され、それにともないNaの排出を担う遺伝子の働きが抑制されることで、血液中のNa濃度が上昇します。アルドステロンは、糸球体上皮細胞傷害に関与することが示されていて、ミネラルコルチコイド受容体(MR)を介して作用します。MR 拮抗薬は、アルドステロンの血中濃度が低い病態でも臓器保護効果を有していて、Naはアルドステロンの臓器傷害に影響を与えていますが、Na自体がMRの発現を亢進させます。
食塩と高血圧
食塩が摂取されるとさまざまな神経体液性因子が反応し、GFR の増加と尿細管によるNa再吸収の低下が起こります。しかし食塩摂取が増加すると、この反応のみでは十分にNaを排泄できないために血圧が上昇します。血圧が上昇すると圧利尿の機序によりNaを排泄し、最終的にナトリウムバランスが維持されます。
論文紹介
食塩感受性高血圧と食塩過剰摂取による高血圧の成因の違いについてのレビュー論文です(1)。図の圧利尿曲線を見ると食塩感受性高血圧では、尿中ナトリウム排泄量を増やすために血圧上昇を要していることが分かります。
腎機能障害がある患者では 日中におけるNa排泄が不十分なために、夜間の血圧が上昇して(夜間高血圧)、ナトリウムバランスが維持されるといわれています。夜間の血圧は腎機能が正常であるほど入眠早期から低下するのに対し,腎機能が悪いと、夜間血圧が低下し始めるまでの時間が延長します。血圧の上昇に伴い腎臓の髄質血流が増加し、腎臓間質全体の圧力が上昇することにより尿細管全般のNa再吸収が低下、腎髄質血流を低下させるとNa貯留が起こり、高血圧を発症します。血圧をあげずにナトリウムを排泄できる薬(サイアザイド系利尿薬、MRA、ARNI、SGLT2i)の併用が望ましいです。
一方で、RAS阻害薬(ACEi/ARB)を内服する場合には、減塩により心腎血管イベントが低下することが報告されています(2)。
さらにこちらは、食塩感受性高血圧および食塩抵抗性高血圧においてそれぞれの減塩の効果をみた論文です(3)。食塩感受性高血圧の方では、減塩による効果が著しく血圧低下に寄与していることが分かります。
高血圧の診療においては、その高血圧の成因に食塩感受性の寄与があるのかどうか、見極めて治療方針を決定することが大切です。
(参照文献)
(1) The impact of excessive salt intake on human health. Nature Reviews Nephrology (2022) volume 18, pages321–335
(2) Moderation of dietary sodium potentiates the renal and cardiovascular protective effects of angiotensin receptor blockers.
Kidney Int. 2012 Aug;82(3):330-7.
(3) Sodium Sensitivity, Sodium Resistance, and Incidence of Hypertension: A Longitudinal Follow-Up Study of Dietary Sodium Intervention. Hypertension. 2021;78:155–164
大濠内科 歯科医師 井上麻乃