高血圧と糖尿病の関係について

血圧の低下が、糖尿病の新規発症を予防するというLancetの論文を紹介します。

イギリス・オックスフォード大学から高血圧治療および降圧薬ごとの2型糖尿病の予防効果についての報告です(1)。

収縮期血圧が5mmHg下がると、糖尿病のリスクが11%低下 

4.5年の追跡期間中に、高血圧治療群では64750人中4332人が糖尿病を発症し、対象群では80558人中5551人が糖尿病を発症しています。

高血圧治療群では、糖尿病新規発症リスクが11%低下しています。特に、BMI30-34.9、>35の肥満症例では、17%、21%とそれぞれ糖尿病新規発症リスクが低下しています。

糖尿病リスクを下げる降圧薬の選び方

RAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)阻害薬は糖尿病新規発症を予防できる可能性がありそうです。

降圧薬の種類糖尿病発症リスク
ACE阻害薬16%減少
ARB16%減少
カルシウム拮抗薬有意差なし
サイアザイド系利尿薬20%増加
β遮断薬48%増加

Ca拮抗薬(アムロジピン、ニフェジピンなど)は、糖尿病新規発症リスクの有意差がありませんでした。

ACE阻害薬(エナラプリルなど)やARB(アジルサルタン、オルメサルタン、ロサルタンなど)は糖尿病発症リスクが16%低下しました。

サイアザイド利尿薬とβ遮断薬は、糖尿病新規発症リスクを上昇させました。この2剤のうち、β遮断薬は、特に心不全、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)や不整脈症例では重要な薬剤なので心不全のリスクを考慮して選択します。また、サイアザイド利尿薬を処方するような体液過剰による高血圧症例では、新しい高血圧治療薬のARNI(エンレスト)を用いることを検討します。

論文の感想

血圧を下げることで、心筋梗塞や脳卒中などの心血管病の発症率が下がることは、これまで多くの知見が蓄積されています。最新の大規模データでは、収縮期血圧5mmHgの低下で、脳卒中が13%、心不全13%、冠動脈疾患8%低下することが報告されていました(2)。さらに糖尿病新規発症が11%低下するという知見が加わりました。

収縮期血圧5mmHg低下すると発症率
心不全 13%低下
脳卒中 13%低下
糖尿病 11%低下
冠動脈疾患 8%低下
心血管死亡 5%低下


血圧コントロールと降圧薬の選択の重要性が、改めて認識されました。
今回紹介した論文は、オープンアクセスで無料で読めます。

(1)Lancet 2021; 398: 1803-10 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)01920-6/fulltext
(2)Lancet 2021; 397: 1625-36 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00590-0/fulltext

大濠内科

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